「実家は兄弟3人で相続するから、とりあえず3分の1ずつ共有にしておこう」
一見すると、これが一番公平な方法に思えます。
長男だけが実家を相続するのも不公平。かといって、すぐに売却するかどうかも決まっていない。
それなら兄弟3人の共有名義にしておけば、全員が平等に3分の1ずつ相続できる――。
ところが実務では、「とりあえず共有」は将来のトラブルの種になりやすい相続方法です。
相続した直後は仲の良い兄弟でも、5年、10年と経てば生活環境も経済状況も変わります。
「売りたい人」「残したい人」「自分が住みたい人」が出てくれば、実家をどうするか簡単には決められなくなります。
今回は、兄弟で実家を共有するとなぜ揉めやすいのか、すでに共有にしてしまった場合にはどうすればいいのか、そして将来の売却を考えるなら知っておきたい「単独名義化」について解説します。
「3人で3分の1ずつ」が一番公平に見える落とし穴
たとえば、父親が亡くなり、相続人が長男・次男・長女の3人だったとします。
遺産の中心は3,000万円程度の実家。
現金はほとんどありません。
そこで、
長男3分の1・次男3分の1・長女3分の1
という共有名義で相続することにしました。
数字だけを見れば、非常に公平です。
ところが不動産は、預貯金のように簡単に3等分できません。
兄弟3人がそれぞれ「家の3分の1の部分」を所有するわけではなく、実家全体を3人で共有することになります。
ここから問題が始まります。
揉める理由① 実家全体を売るには全員の協力が必要
共有不動産について、共有者の一人が自分の持分だけを売却することは可能です。
しかし、実家そのものを第三者に通常の不動産として売却するのであれば、共有者全員が売主となって手続きを進める必要があります。
兄弟3人のうち、2人が、
「もう誰も住まないし、売ろう」
と考えていても、残りの1人が、
「思い出の家だから売りたくない」
と言えば、そのまま全体を売却することはできません。
つまり、多数決で2対1だから売れる、という話ではないのです。
共有物の管理に関する事項は、原則として持分価格の過半数で決められますが、共有物に重大な変更を加える行為については、原則として他の共有者の同意が必要になります。
実家を売却したいときに、この「一人の反対」が非常に大きな問題になります。
揉める理由② 固定資産税・修繕費・草刈りを誰が払う?
誰も住んでいない実家でも、お金はかかります。
- 固定資産税
- 火災保険料
- 庭木の剪定や草刈り
- 建物の修繕
- 水道・電気などの基本料金
- 遠方の場合は現地確認の交通費
共有者は原則として、その持分に応じて共有物に関する負担を負います。
しかし現実には、きれいに3等分されるとは限りません。
「長男が実家の近くに住んでいるから管理している」
「固定資産税の納付書が長女のところに来るから、とりあえず払っている」
「次男は県外に住んでいて何もしていない」
こんな状態が数年続けばどうでしょう。
最初は小さな負担でも、次第に、
「なんで私ばかりお金を払っているの?」
という不満につながります。
揉める理由③ 一人だけ実家に住み始める
さらに厄介なのが、共有者の一人が実家を使用しているケースです。
たとえば長男が、
「空き家にしておくのももったいないから、しばらく俺が住むよ」
と実家に住み始めたとします。
最初は兄弟も納得していた。
ところが10年後、次男と長女が売却したくなった。
長男は、
「ここが自宅なんだから売れない」
と言い始める。
こうなると、単なる「空き家を売る」という問題ではなく、兄弟の生活そのものが絡んできます。
なお、共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、自己の持分を超える使用について他の共有者に対して対価を負担するという民法上のルールもあります。
誰か一人が住むのであれば、最初の段階で使用条件や費用負担について整理しておくことが重要です。
揉める理由④ 「共有者」がどんどん増える可能性がある
共有不動産で本当に怖いのは、今の兄弟3人だけの問題ではありません。
共有者の一人が亡くなれば、その持分がさらに相続される可能性があります。
たとえば、
父の実家を長男・次男・長女の3人で相続。
その後、次男が亡くなり、次男の持分を妻と子どもが相続。
さらに長男が亡くなり、その子どもたちが相続――。
こうして世代交代が進むと、当初3人だった共有関係が、5人、6人、場合によってはそれ以上になることもあります。
しかも、いとこ同士など普段ほとんど交流のない親族が共有者になる可能性があります。
共有者が増えるほど、実家を売却するときの合意形成は難しくなります。
「じゃあ自分の3分の1だけ売ればいい」は現実的?
法律上、共有者は自分の持分を売却することができます。
つまり長男が3分の1の持分を持っているなら、その3分の1だけを第三者へ売却すること自体は可能です。
ただし、通常のマイホームを探している人が、
「知らない兄弟2人と共有になる実家の3分の1だけ買いたい」
とは、なかなか考えません。
そのため共有持分だけを売却する場合、買主が限定され、一般的な不動産売却とは異なる取引になりやすくなります。
「持分だけ売れるから共有でも問題ない」と考えるのは危険です。
そもそも相続の時点で「共有にしない」という選択肢
ここまで読むと、
「じゃあ実家はどう相続すればいいの?」
と思うでしょう。
実家を兄弟全員の共有にする以外にも、遺産分割には方法があります。
方法① 一人が実家を取得する「代償分割」
たとえば実家を長男が単独で取得し、その代わりに長男から次男・長女へ一定の金銭を支払う方法です。
これを「代償分割」といいます。
実家の名義は長男一人になるため、その後の管理や将来の売却について共有者全員の意思をそろえる必要がありません。
ただし当然、実家を取得する人に代償金を支払う資力が必要です。
方法② 実家を売ってお金を分ける「換価分割」
誰も実家を必要としていないのであれば、売却して現金に変え、その売却代金を相続人で分ける方法もあります。
これが「換価分割」です。
たとえば3,000万円で売却し、諸費用などを精算した残額を兄弟3人で分ける。
不動産そのものを3人で持つのではなく、お金に変えて分けるため、共有関係を将来に残さずに済みます。
誰も住む予定のない実家なら、有力な選択肢です。
すでに共有にしてしまった!「単独名義化」という選択肢
問題は、すでに兄弟3人の共有名義で相続登記をしてしまった場合です。
「もう共有にしてしまったから、一生このままなの?」
そんなことはありません。
兄弟間で合意できるのであれば、一人が他の共有者の持分を取得し、単独所有にする方法があります。
たとえば、
- 長男 3分の1
- 次男 3分の1
- 長女 3分の1
となっている実家について、長男が次男と長女の持分を取得すれば、長男の単独所有になります。
単独名義になれば、その後は長男の判断で通常の不動産として売却することができます。
これが、共有状態を解消する一つの方法です。
ただし「名義だけ長男に変える」は危険
ここは非常に重要です。
「売りやすくするため、とりあえず長男一人の名義に変更しておこう」
と、単純に名義だけを動かせばいいわけではありません。
すでに遺産分割が終了し、兄弟それぞれが共有持分を取得しているのであれば、その後の持分移転については売買、贈与、共有物分割など、実態に応じた法律関係と登記原因を検討する必要があります。
方法によって、税金や登記費用も変わります。
特に無償で持分を移転すれば贈与税が問題になる可能性もあるため、売却のためだけに安易に名義を一本化するのはおすすめできません。
話し合いでまとまらなければ「共有物分割」という方法もある
すでに通常の共有状態となっており、共有者同士で話し合っても解決できない場合には、共有物分割という手続きが問題になります。
民法では、原則として各共有者は共有物の分割を請求することができます。
話し合いがまとまらなければ、裁判所へ共有物分割を請求する方法もあります。
裁判所は事情に応じて、現物を分割する方法のほか、一人の共有者に他の共有者の持分を取得させて金銭を支払わせる方法などを命じることができます。
それでも適切に分割できない場合などには、競売が命じられる可能性もあります。
ただし、まだ共同相続人間で遺産分割をすべき状態にある不動産については、原則として遺産分割の手続きが先になります。
「相続不動産なら何でも共有物分割訴訟をすればいい」というわけではありません。
売却するなら「誰の名義にするか」より先に価格を知る
ここで実務上、もう一つ重要なポイントがあります。
代償分割や共有持分の買取りを考えるとき、そもそも実家がいくらなのかが分からなければ話が進みません。
たとえば長男が実家を単独取得するとしても、
実家の価値が1,500万円なのか、3,000万円なのか、5,000万円なのか。
これによって兄弟へ支払う金額の考え方は大きく変わります。
また、
「長男が2,000万円くらいの家だと言っている」
「いや、長女は4,000万円くらいすると言っている」
という状態では、話し合いそのものが進みません。
そのため、共有を避けて一人が取得する場合でも、売却して換価分割する場合でも、まず不動産会社などに査定を依頼し、現在の市場価値を把握することが重要です。
査定を依頼したからといって、その会社に必ず売却しなければならないわけではありません。
「売るための査定」だけではなく、「遺産分割を考えるための査定」という使い方もできます。
実家の共有は「今揉めていない」から大丈夫、ではない
兄弟で実家を共有する最大の問題は、相続した瞬間に揉めることではありません。
将来の判断を、兄弟全員に委ね続けることです。
今は仲が良くても、それぞれ結婚したり、仕事を辞めたり、介護が必要になったり、お金が必要になったりします。
さらに兄弟が亡くなれば、その配偶者や子どもたちが新しい共有者になる可能性があります。
「今は決められないから、とりあえず共有」
これは問題を解決したのではなく、判断を将来へ先送りしただけともいえます。
まとめ|実家の共有は「公平」より「出口」で考える
兄弟3人で実家を3分の1ずつ共有する。
数字だけなら、とても公平です。
しかし不動産相続では、持分を公平にすることと、将来困らないことは別問題です。
誰も住まない実家であれば、
- 一人が取得して代償金を支払う
- 売却して現金を分ける
- すでに共有なら、持分を整理して単独所有にできないか検討する
といった方法があります。
そして、その判断のスタートになるのが「この実家はいくらなのか」を知ることです。
実家を残すのか、誰か一人が取得するのか、それとも売却するのか。
相続した時点では答えが出なくても構いません。
ただし、何となく「3人で共有」にして問題を先送りする前に、5年後、10年後にどうやってこの不動産から抜けるのかまで考えておくことが大切です。
相続不動産は、「どう分けるか」だけではなく、「どう終わらせるか」まで考えて分ける。
それが、兄弟間のトラブルを防ぐための重要なポイントです。
※本記事は2026年9月時点の法令に基づく一般的な解説です。具体的な遺産分割、共有持分の移転、登記、税務については、個別の状況に応じて司法書士・弁護士・税理士等へご確認ください。

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