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「遺言書を書いたから安心」は危険!自筆証書遺言の落とし穴と、公正証書を勧める理由

「遺言書は自分で書いたから、相続の準備はもう大丈夫」

そう考えている方は、少し注意が必要です。

遺言書は、紙とペンがあれば自分で作成できます。しかし、せっかく家族のために書き残しても、法律で定められた形式を守っていなければ、無効になってしまうことがあります。

さらに厄介なのは、形式上は有効でも、内容が曖昧で相続手続きが進まないケースです。

「長男に自宅を残したい」「預貯金は子どもたちで分けてほしい」。本人の希望は明確でも、その書き方によっては、残された家族が困ってしまうことがあります。

遺言書は、書いたことよりも、亡くなった後にきちんと使えることが重要です。

今回は、自筆証書遺言で起こりやすい失敗と、公正証書遺言を検討したい理由について、相続実務の視点から解説します。

自筆証書遺言とは?手軽に書ける反面、落とし穴も多い

自筆証書遺言とは、遺言者が自分で書いて作成する遺言書です。

公証役場に行かず、自宅で作成できるため、費用を抑えられるというメリットがあります。

ただし、遺言書として有効になるためには、民法で定められた方式を守らなければなりません。

「自分の財産を誰に渡すか書いて、名前を書けば完成」というほど簡単ではないのです。

落とし穴① 日付の書き方ひとつで無効になる

自筆証書遺言では、原則として、遺言書の全文、作成日付、氏名を本人が自書し、押印する必要があります。

例えば、日付を次のように記載した場合はどうでしょうか。

「令和8年9月吉日」

一見、問題なさそうですが、これでは作成した日を特定できません。

遺言書には、原則として「令和8年9月27日」のように、年月日を具体的に記載する必要があります。

また、本文をパソコンで作成し、最後に署名と押印だけをしたものも、自筆証書遺言の方式を満たしません。

なお、財産目録については例外があり、一定の条件を満たせばパソコンで作成したものや登記事項証明書のコピーなどを添付できます。

「手書きの遺言書」といっても、どこまで自筆でなければならないかには、明確なルールがあります。

落とし穴② 財産目録の署名・押印を忘れてしまう

自宅の土地・建物、複数の銀行口座、株式など、財産が多い場合には、財産目録を作成すると便利です。

2019年からは、自筆証書遺言に添付する財産目録について、パソコンでの作成や資料のコピーが認められています。

ただし、自書していない財産目録には、原則として各ページに本人の署名と押印が必要です。両面に自書によらない記載がある場合は、両面に署名・押印が必要となります。

また、パソコンで作成した財産目録の余白に「この不動産は長男に相続させる」など、遺言本文に当たる内容を書き加える方法にも注意が必要です。

財産目録の作成方法が緩和されたからといって、遺言本文まで自由に作成できるようになったわけではありません。

落とし穴③ 書き間違えを修正液で直してしまう

自筆証書遺言で特に注意したいのが、書き間違えた場合の訂正方法です。

一般的な書類であれば、二重線を引いたり、修正液を使ったりすることがあります。

しかし、遺言書の訂正には、法律で定められた方式があります。

変更した場所を示し、変更した旨を付記して署名し、変更箇所に押印するなどの手続きが必要です。

この方式を守らなければ、訂正の効力が認められないことがあります。

訂正する箇所が多い場合には、無理に書き直しを重ねず、新しい遺言書を作成することも検討しましょう。

落とし穴④ 遺言書は有効なのに、相続手続きが進まない

実務上、形式不備と同じくらい注意したいのが、遺言内容の曖昧さです。

例えば、次のような遺言書があったとします。

「私の自宅は長男に、預金は長女に渡す」

本人にとっては十分に伝わる文章かもしれません。

しかし、相続手続きをする側から見ると、確認すべき点がいくつもあります。

  • 「自宅」とは、土地と建物の両方を指すのか
  • 敷地が複数の土地に分かれている場合、すべて含まれるのか
  • 「預金」には、どの金融機関の口座が含まれるのか
  • 遺言書を書いた後に購入した不動産や、新たに開設した口座はどうするのか

もちろん、これらの記載があるからといって、直ちに遺言書全体が無効になるわけではありません。

しかし、財産の特定や遺言内容の解釈をめぐって争いになったり、金融機関や法務局への追加資料の提出が必要になったりする可能性があります。

場合によっては、相続人全員による協議や裁判上の手続きが必要になることもあります。

家族に財産を残すための遺言書が、かえって家族の負担になってしまう。これこそ、避けたい事態です。

落とし穴⑤ 遺言書が見つからない、あるいは隠されてしまう

自宅で保管している遺言書には、もう一つ大きな問題があります。

それは、亡くなった後に発見されない可能性があることです。

大切にしまい込んだ結果、家族が存在を知らないまま遺産分割を進めてしまうことも考えられます。

また、遺言書の内容に不満を持つ相続人が、遺言書を隠したり、破棄したりするリスクも否定できません。

自宅で保管されていた自筆証書遺言は、原則として、家庭裁判所での「検認」も必要です。

検認は遺言書の状態や内容を明確にし、偽造・変造を防ぐための手続きであり、遺言書の有効性を判断するものではありません。

遺言書を見つけた相続人が、すぐに銀行や法務局で手続きできるとは限らないのです。

では、公正証書遺言なら安心?勧めたい3つの理由

こうした自筆証書遺言のリスクを減らす方法として、検討したいのが公正証書遺言です。

公正証書遺言は、遺言者の意思に基づき、公証人が法律で定められた手続きに従って作成する遺言書です。

1.公証人が関与するため、形式不備のリスクを抑えられる

公正証書遺言では、公証人が遺言内容を確認し、原則として2人以上の証人の立会いのもとで作成します。

自筆証書遺言のように、日付の書き間違いや押印漏れなどで無効になるリスクを抑えられます。

また、公証人が本人の意思を確認しながら作成するため、遺言書の成立過程について、後から説明しやすいというメリットもあります。

ただし、公正証書遺言であっても、遺言能力や意思表示などをめぐって争いになる可能性がなくなるわけではありません。

2.原本が公証役場に保管される

公正証書遺言の原本は、公証役場で保管されます。

自宅で保管する場合と異なり、紛失や第三者による破棄・改ざんのリスクを抑えられます。

また、公正証書遺言は家庭裁判所の検認が不要です。

相続開始後、遺言書に基づく手続きを進めやすい点は、残された家族にとって大きなメリットです。

3.複雑な相続内容にも対応しやすい

例えば、次のような希望がある場合には、特に慎重な遺言書の作成が必要です。

  • 実家を長男に相続させ、預貯金をほかの子どもに分けたい
  • 再婚しており、前婚の子どもと現在の配偶者が相続人になる
  • 子どもがいないため、配偶者に財産を多く残したい
  • 特定の相続人に財産を集中させたい
  • 不動産や預貯金が複数あり、財産ごとに承継先を決めたい

こうした場合は、誰に何を残すかだけでなく、遺留分への配慮、予備的な遺言、遺言執行者の指定なども検討したいところです。

公証人に加え、必要に応じて司法書士や弁護士などに相談し、実際の相続手続きまで見据えた内容にすることが重要です。

公正証書遺言のデメリットは?費用と準備が必要

公正証書遺言にもデメリットはあります。

主なものは、作成費用がかかることと、事前準備が必要なことです。

公証人の手数料は、財産の価額や財産を渡す相手の人数などによって異なります。専門家に原案作成や資料収集を依頼する場合には、別途報酬が発生することもあります。

また、原則として2人以上の証人が必要です。ただし、推定相続人や受遺者など、法律上、証人になれない人もいます。

病気などで公証役場へ出向くことが難しい場合には、公証人に出張してもらう方法もありますが、別途費用がかかります。

費用や準備の手間はありますが、相続人同士の争いが予想される場合や、相続財産に不動産が含まれる場合などには、公正証書遺言を積極的に検討する価値があります。

費用を抑えたいなら、法務局の遺言書保管制度も選択肢

「公正証書遺言が安心なのは分かったけれど、できるだけ費用を抑えたい」

そんな方には、法務局の自筆証書遺言書保管制度という選択肢もあります。

この制度を利用すれば、自分で作成した遺言書を法務局で保管してもらえます。

保管申請の手数料は3,900円です。

法務局では、自筆証書遺言の方式について外形的な確認が行われるほか、保管された遺言書は家庭裁判所での検認が不要になります。

ただし、ここで注意したい点があります。

法務局に預けたからといって、遺言内容の法的な有効性まで保証されるわけではありません。

例えば、財産の指定が曖昧だったり、遺留分への配慮が不足していたりしても、法務局が遺言内容を修正してくれるわけではありません。

保管制度を利用する場合でも、遺言内容に不安があるなら、作成前に専門家へ相談することをお勧めします。

自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶ?

比較項目自筆証書遺言(自宅保管)自筆証書遺言(法務局保管)公正証書遺言
作成方法本人が作成本人が作成公証人が作成
費用基本的に不要保管申請3,900円財産額などに応じた手数料
形式面の確認原則なし法務局が外形的に確認公証人が関与
原本の保管本人など法務局公証役場
家庭裁判所の検認原則必要不要不要

※専門家に作成支援を依頼する場合には、いずれの方法でも別途報酬が発生することがあります。

財産や家族関係が比較的単純で、費用を抑えたい場合には、専門家の助言を受けて自筆証書遺言を作成し、法務局に保管する方法も考えられます。

一方、相続人同士の対立が予想される場合や、不動産の承継方法が複雑な場合には、公正証書遺言を検討するとよいでしょう。

遺言書を作る前に、家族が困らないための準備を

遺言書の作成を考えたら、まずは自分の財産と相続人を整理しましょう。

不動産については登記事項証明書、預貯金については金融機関や口座の情報などを確認し、誰に何を残すかを具体的に考えることが大切です。

また、特定の子どもに実家を残したい場合には、ほかの相続人との公平性や遺留分も検討する必要があります。

例えば、実家を長男に相続させる代わりに、生命保険金をほかの子どもへの代償金の原資として活用する方法もあります。

▶ 自宅は長男に残したい。でも兄妹でもめてほしくない|「遺言書+生命保険」でつくる円満相続

さらに、遺言書を作成した後も、財産の内容や家族関係が変わったときには、定期的に見直すことが大切です。

まとめ|「遺言書を書いた」ではなく「家族が使える遺言書」を残そう

自筆証書遺言は、手軽に作成できる便利な制度です。しかし、日付や押印、財産目録、訂正方法など、法律上の方式を守らなければ無効になる可能性があります。

また、形式上は有効でも、財産の指定が曖昧であれば、残された家族が相続手続きに苦労することもあります。

特に、不動産を含む相続や、家族関係が複雑な場合には、公正証書遺言を検討したいところです。

費用を抑えたい場合には、法務局の自筆証書遺言書保管制度を活用する方法もあります。

大切なのは、遺言書を残すこと自体ではなく、自分の希望が実現し、家族が安心して相続手続きを進められるようにすることです。

せっかく家族のために遺言書を書くなら、作成方法だけでなく、その内容や保管方法まで、しっかり考えておきましょう。

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この記事を書いた人

相続・不動産売却・終活の情報を分かりやすく発信する「相続で困ったら読むブログ」を運営。

相続・不動産実務に十数年携わり、行政書士・宅建士・FP資格を保有。
某法務事務所兼不動産仲介会社で、ちょっぴりクセ強なBOSSのもと修業すること十数年。相続・不動産に関するさまざまなご相談・お悩みに携わってきました。

現場で培った知識と経験をもとに、「結局どうすればいいの?」が分かる実践的な情報をお届けします。

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