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「住所は分かる。でも返事がない」相続人を現地まで訪ねても会えず、遺産分割調停になった話

相続した実家には、誰も住む予定がない。

相続人の多くは、

「それなら実家を売却して、売却代金を相続人で分けよう」

という考えで一致していました。

ところが、相続人の一人だけ、どうしても連絡が取れません。

住所は分かっています。

手紙などで連絡をしても返事がない。

そこで最終的には、司法書士が実際に現地まで足を運び、本人との接触を試みることになりました。

しかし、それでも本人と会うことはできませんでした。

実家を売りたい。

ほかの相続人も売却には賛成している。

買主を探すことだってできる。

それなのに、相続人の一人が話し合いに参加してくれないため、相続手続きそのものが前へ進まない。

結局、このケースでは任意の遺産分割協議で解決することができず、家庭裁判所での遺産分割調停へ進むことになりました。

今回は、実際に相続実務に携わる中で経験したケースをもとに、個人が特定されないよう一部を一般化して、「相続人の住所は分かっている。でも連絡に応じてもらえない」場合に何が起こるのかを解説します。

相続した不動産を売ってお金で分けたい。でも一人だけ返事がない

相続財産の大部分が不動産の場合、「不動産そのものを誰かが取得する」のではなく、売却して現金に換え、その売却代金を相続人で分けることがあります。

いわゆる「換価分割」です。

例えば、相続人が兄弟3人で、誰も実家に住む予定がない場合。

実家を売却し、売却に必要となった費用などを精算したうえで、残ったお金を合意した割合で分けるという方法が考えられます。

不動産を共有名義のまま残す必要もなく、比較的分かりやすい分割方法です。

ところが、ここには大前提があります。

遺産分割には、相続人全員の参加が必要です。

3人のうち2人が、

「売却して3人で分ければいい」

と考えていたとしても、残る一人を無視して進めることはできません。

「連絡が取れない」には2種類ある

ここで重要なのが、同じ「連絡が取れない相続人」でも、状況によって対応が違うということです。

大きく分けると、

  • どこにいるのか分からない
  • どこにいるのかは分かるが、連絡に応じない

という2つのケースがあります。

前者について、所在を調査しても居場所が分からず、容易に戻る見込みがないような場合には、家庭裁判所へ「不在者財産管理人」の選任を申し立てる方法が検討されます。

▶ 「海外にいる兄と連絡が取れない」実家が売れない!不在者財産管理人を選任しても大変だった相続実務

しかし、今回のケースは違いました。

住所そのものは判明しているのです。

問題は「どこにいるか分からない」のではなく、こちらから連絡しても応答してもらえないことでした。

この違いは非常に重要です。

返事をしてくれないからといって、当然にその人を「不在者」として扱い、代わりの人に遺産分割へ参加してもらえるわけではありません。

手紙を送っても返事がない。それでも相続手続きは止まったまま

相続人同士で話し合いができれば、家庭裁判所を利用する必要はありません。

そのため、まずは任意の遺産分割協議を成立させるため、本人へ連絡を試みます。

しかし、こちらから書面などを送っても返事がありません。

当然ながら、

「返事がないので、同意したことにしましょう」

というわけにはいきません。

遺産分割協議書を作成して送りつけ、一定期間返事がなければ成立する、という制度でもありません。

沈黙は、遺産分割への同意ではないのです。

そして時間だけが経過していきます。

それなら直接会いに行こう。司法書士が現地まで足を運んだ

今回のケースでは、書面による連絡だけでは話が進みませんでした。

そこで、本人の所在・連絡状況を確認し、相続手続きへの協力をお願いするため、相続手続きの依頼を受けた司法書士が実際に現地まで足を運びました。

「手紙には返事をしてくれなくても、直接訪問すれば話を聞いてもらえるかもしれない」

そう考えたからです。

しかし、現地まで行ったものの、結局本人と会うことはできませんでした。

もちろん、相続人にはそれぞれ事情があります。

家族との関係が悪化しているのかもしれません。

相続そのものに関わりたくないのかもしれません。

あるいは、単純に連絡を避けているだけかもしれません。

こちらから、その理由を勝手に決めつけることはできません。

しかし、理由が分からないままでも、相続人の一人が遺産分割協議に参加しなければ、不動産の売却を前提とした相続手続きは前へ進みません。

現地まで行けば解決するとは限らない

ここは、実際に相続手続きを進めてみないとなかなか分からないところです。

相続人の住所が分かれば、何とかなるように思えます。

手紙を出せば返事が来る。

返事がなければ電話をする。

それでもダメなら直接会いに行く。

どこかの段階で話ができるだろうと思ってしまいます。

しかし、本人が話し合いに応じる意思を示さなければ、こちらがどれだけ動いても任意の遺産分割協議を成立させることはできません。

現地へ行くにも時間がかかります。

遠方であれば交通費もかかります。

そして、そこまでしても本人に会える保証はありません。

「もう少し待てば返事が来るかもしれない」

「もう一度連絡してみよう」

そうしている間にも、数か月、場合によってはそれ以上の時間が経過していきます。

その間も、相続した実家の時間は止まってくれない

ここで問題になるのが不動産です。

遺産分割協議が止まっていても、実家そのものの時間が止まるわけではありません。

固定資産税はかかります。

空き家なら定期的な管理も必要です。

庭木や雑草の手入れが必要になることもあります。

台風などで建物が破損する可能性もあります。

マンションなら、管理費や修繕積立金の負担も続きます。

さらに、建物は時間が経てば劣化しますし、不動産市況もずっと同じとは限りません。

つまり、

「相続人から返事がない」という人間関係の問題が、「不動産を売れない」という経済的な問題へ変わっていくのです。

「ほかの相続人は全員賛成」でも売却できない

こうしたケースでは、

「ほかの相続人は全員売却に賛成しているんだから、先に売りに出せないの?」

と思うかもしれません。

しかし、遺産分割が未了の相続不動産について、ほかの相続人だけの判断で不動産全体を自由に処分することはできません。

もちろん、不動産会社へ相談して相場を調べたり、査定を受けたりすることと、実際に不動産を処分することは別です。

将来の換価分割を想定して不動産の価格を把握しておくことは、遺産分割の方向性を考える材料にもなります。

しかし、実際に売却へ進むためには、相続関係を整理し、必要な手続きを踏む必要があります。

任意の話し合いができない。そこで家庭裁判所の「遺産分割調停」へ

何度連絡しても返事がない。

現地まで訪問しても本人と接触できない。

このまま任意の話し合いを待っていても、遺産分割が成立する見込みが立たない。

そこで今回のケースでは、最終的に家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用することになりました。

遺産分割調停は、相続人だけでは遺産の分け方について話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所で話し合いを行う手続きです。

調停では、裁判官と調停委員で構成される調停委員会が双方から事情を聞き、必要な資料などを確認しながら、合意による解決を目指します。

大切なのは、「相続人同士で直接話し合えないなら、そこで終わり」ではないということです。

任意の協議が進まないのであれば、家庭裁判所という手続きを利用して、遺産分割を前へ進める方法があります。

調停を申し立てても、相手が無視したらどうなる?

ここで気になるのが、

「今まで連絡を無視している人が、家庭裁判所から呼ばれたからといって来るの?」

という問題でしょう。

もちろん、調停を申し立てたからといって、必ず相手方が積極的に話し合いへ参加するとは限りません。

また、調停は裁判所が一方的に遺産の分け方を命令する手続きではなく、基本的には当事者間の合意を目指す手続きです。

しかし、遺産分割調停で話し合いがまとまらず調停が不成立となった場合には、原則として遺産分割審判へ移行します。

審判では、裁判所が提出された資料や事情などを踏まえて、遺産の分割方法について判断することになります。

つまり、一人がいつまでも任意の話し合いに応じないからといって、永久に遺産分割ができないわけではありません。

不動産を売って分ける「換価分割」も遺産分割の方法の一つ

今回のように、誰も相続した不動産を取得することを希望せず、売却してお金で分けたい場合には「換価分割」という方法があります。

遺産分割の代表的な方法には、次のようなものがあります。

  • 現物分割:不動産や預金などを、それぞれ相続人が取得する
  • 代償分割:一人が不動産などを取得し、ほかの相続人へ代償金を支払う
  • 換価分割:不動産などを売却し、その売却代金を相続人で分ける

誰も実家に住まないのであれば、換価分割は有力な選択肢の一つです。

ただし、換価分割をする場合には、単に「売って3等分」と考えるだけでは足りないことがあります。

実際の売却では、仲介手数料、登記関係費用、測量費用、残置物処分費用などが発生することがあります。

また、固定資産税等の精算や、売却までの維持管理費をどう扱うのかという問題もあります。

「いくらで売るか」だけでなく、「売却にかかった費用をどのように精算し、最終的な手取り額をどう分けるか」まで整理しておくことが大切です。

いつまで「返事を待つ」のかも重要

相続人から返事がない場合、いきなり家庭裁判所へ行くことに抵抗を感じる方もいるでしょう。

家族なのだから、できれば話し合いで解決したい。

もう一度手紙を送れば返事が来るかもしれない。

共通の親族から連絡してもらえば応じてくれるかもしれない。

そう考えるのは自然なことです。

実際、任意の話し合いで解決できるのであれば、その方が負担は少なく済むでしょう。

しかし、何度連絡しても反応がなく、時間だけが経過しているのであれば、「いつまで待つのか」についても考える必要があります。

特に相続財産に空き家などの不動産が含まれている場合には、待っている間にも維持費が発生します。

「裁判所は大げさだから」と何年も放置することが、必ずしも相続人全員にとって良い結果になるとは限りません。

「連絡が取れない=行方不明」と決めつけない

今回のケースから知っておいてほしいことが、もう一つあります。

相続人と連絡が取れないからといって、すべて同じ手続きをするわけではありません。

所在そのものが分からない場合と、住所は分かっているものの本人が話し合いに応じない場合では、検討すべき手続きが違います。

所在を調査しても相続人がどこにいるのか分からないケースでは、不在者財産管理人の選任が必要になることがあります。

一方、所在は分かっているものの、本人が遺産分割協議に応じないのであれば、任意の協議をいつまで続けるのかを判断し、必要に応じて遺産分割調停を検討することになります。

同じ「相続人と連絡が取れない」でも、状況を整理することが最初の一歩です。

まとめ|一人が返事をしないだけで、実家売却は止まる。でも打つ手がないわけではない

相続した実家を売却して、売却代金を相続人で分けたい。

ほかの相続人もそれに賛成している。

それでも、相続人の一人が遺産分割の話し合いに参加してくれなければ、手続きを思うように進めることはできません。

今回のケースでは、住所を確認し、書面などで連絡を試み、さらに事務所から現地まで足を運びました。

それでも本人と会うことができず、最終的には家庭裁判所の遺産分割調停へ進むことになりました。

ここで大切なのは、「返事が来ないから、もう何もできない」と諦める必要はないということです。

一方で、返事が来るか分からないまま何年も待ち続ける必要があるとも限りません。

所在そのものが分からないのか。

住所は分かっているけれど連絡に応じないのか。

売却したい不動産があるのか。

ほかの相続人はどのような分割を希望しているのか。

まず状況を整理したうえで、任意の協議を続けるのか、家庭裁判所の手続きを利用するのかを検討することになります。

相続人全員が話し合いに参加してくれることは、決して当たり前ではありません。

だからこそ、「連絡が取れない相続人がいる」と分かった段階で早めに動くことが、結果的に相続不動産の売却までの時間と負担を減らすことにつながります。

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この記事を書いた人

相続・不動産売却・終活の情報を分かりやすく発信する「相続で困ったら読むブログ」を運営。

相続・不動産実務に十数年携わり、行政書士・宅建士・FP資格を保有。
某法務事務所兼不動産仲介会社で、ちょっぴりクセ強なBOSSのもと修業すること十数年。相続・不動産に関するさまざまなご相談・お悩みに携わってきました。

現場で培った知識と経験をもとに、「結局どうすればいいの?」が分かる実践的な情報をお届けします。

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